ビジターセンターに隣接している浄土平湿原は、新しい火山地域に属し、標高1,570mから1,600mに位置する亜高山帯の平地です。
北に一切経山、東は吾妻小富士、南に桶沼、西の蓬莱山と四方を囲まれた凹地で、一切経山から噴出した泥土や岩塊に埋められ、火山活動がくりかえされてきました。そのために乾 燥地と湿潤地、またその中間の適潤地とに区別され、それぞれ異質の植物群落の発達が見られます。
乾燥地での植物群落は、ススキ、コメススキ、ヒメスゲ、メイゲツソウ、ミネヤナギなど。
湿潤地では、ワタスゲ、エゾオヤマリンドウ、ガンコウラン、モウセンゴケなど。
岩塊の多い適潤地では、イワカガミ、イソツツジ、シラネニンジン、ネバリノギラン、ハクサンチドリ、ミヤマアキノキリンソウなどが自生しています。
この湿原から眺める新緑のダケカンバ樹林や、秋の紅葉の景観はとくに素晴らしい。ぜひ歩いてみましょう。
吾妻小富士は比較的新しい火山のため、森林の発達はまだ不十分です。そして、斜面の砂や礫の移動があるため、植物は定着し難く、植生はまばらです。しかし、南側の裾野からキタゴヨウがはうように侵入してきています。
山体の北東部は雨水による掘り溝が著しく、やや安定した礫地では土壌の移動や乾燥に強いイタドリ、コメススキなどの先駆植物が定着し、マルバシモツケ、ミネヤナギなどの高山性低木のあいだにイワカガミが見事に開花しています。
山頂付近の砂礫地では植物の侵入はまだ少ないが、かろうじてヒメシャジン、イタドリ、ミネヤナギ、マルバシモツケなどが見られます。
桶沼の南西部は旧硫黄製錬所の燃料として樹木が伐採されたため二次林でありますが、東側は伐採が少なかったためキタゴヨウ、コメツガ、ダケカンバなどの大木が多く、下層にはハクサンシャクナゲ、ミネカエデ、ミネザクラなどが見られます。しかし、まだ完全な亜高山帯の極相林までには発達していません。
雪解け後、ミネザクラ、ムラサキヤシオツツジなどの開花は見事であり、7月ころに遊歩道沿いを注意すると、雄しべなどが花弁化したネモトシャクナゲが鑑賞できるのも楽しいです。
蓬莱山の中腹では、一切経山の明治噴火(1893年)で生き残ったチシマザサのほか、オオバスノキ、マルバシモツケ、ハクサンシャクナゲなどが主で、その他にムラサキヤシオツツジ、オオカメノ キ、シラタマノキ、イワカガミなどが人目を惹きます。このあたりは残雪が多く、初夏まで雪渓渡りが楽しめます。
酸ケ平湿原にはワタスゲ、イワオトギリ、コケモモ、ミヤマリンドウなど高山植物が繁茂し、浅い池塘には吾妻山の特産種アヅマホシクサも見られます。
姥ケ原では、まばらにあるオオシラビソやミネザクラが東方に傾いたテーブル状樹形をしています。これは、きびしい冬の西風の仕業であり、西風は本来の亜高山帯針葉樹林の成立を阻 止しています。蓬莱山の中腹でも強い西風によるオオシラビソの旗状偏形樹の群落が見られます。
木道沿いにはチングルマ、コバイケイソウの群落、秋にはエゾオヤマリンドウなどまさに雲上の庭園であり、6月から9月まで季節の花で彩られます。